企業が採用活動を行う際、単に「優れた人材を採用する」ことだけではなく、法令遵守とリスク対応を組み込むことが欠かせません。採用過程での法令違反や管理ミスは、企業の信用失墜や法的リスク、さらには採用後のトラブルへと発展しかねません。
この記事では、採用時に直面するリスクの具体例や、リスクを未然に防ぐための制度づくり、トラブル発生時の対応策などを解説します。
採用に潜む主なリスク・注意すべき法令違反のポイント

採用活動では、法令遵守と情報管理の徹底が不可欠です。この項では、採用する企業が意識しなければいけない代表的な注意点をまとめています。
不適切な質問・差別・選考基準の偏り
採用選考時に、合理的な理由なく「応募者の能力や適正とは関係のないこと」や「本人に責任のないこと」を尋ねることはできません。
婚姻状況や宗教に関すること、支持政党や出生地などがこれに該当します。さらに詳しく、網羅的にNG事項を確認したい方は下記のリンクをご確認ください。
こうした不適切な質問は明らかなコンプライアンス違反です。採用担当者はその線引きを十分に理解しておく必要があります。
個人情報漏洩のリスク
応募書類や面接記録、適性検査の結果など、採用過程では多くの個人情報を扱います。これらのデータを必要以上に保存したり、社内で無断共有したりすると、個人情報保護法違反となる恐れがあります。
アクセス権限の限定、データの保管期間の明確化、廃棄ルールの徹底など、実務レベルでのガイドライン整備が欠かせません。
経歴詐称・反社会勢力チェックの不備によるリスク
応募者の経歴やバックグラウンドの確認は、採用時に欠かせないプロセスです。これを怠ると、入社後のトラブルや企業としての信頼失墜を招きかねません。極端な例では、反社会的勢力とつながりのある人材を採用してしまうリスクもあります。トラブルを防止するためにも、事前のチェック体制をしっかり整えておくことが重要です。
▼バックグラウンドチェックにおすすめのサービス
採用前に経歴や反社会的勢力との関わりをチェックする際、手動で複数メディアを調べたり情報を精査したりするのは膨大な工数がかかります。この項では、バックグラウンドチェックや反社チェックで活用できる、信頼性の高いツールやサービスをご紹介します。
●反社チェックサービス「RISK EYES」

「RISK EYES」は、Webニュースや新聞記事だけでなく、制裁リストやネット上の情報までを横断的に調査して、反社・不祥事リスクを可視化するサービスです。非常に高い精度で、効率的にリスク管理ができます。
採用において、反社チェックは企業リスクを防ぐための重要なプロセスです。さらに詳しくは、以下の解説記事をご覧ください。
採用戦略とは?進め方やメリット、ポイントをわかりやすく解説 | 反社チェックサービス「RISK EYES(リスクアイズ)」
リスクを未然に抑える制度と仕組みづくり

リスクを防ぐには、属人的な判断に頼らず、仕組みとして運用できる体制づくりが重要です。
採用ポリシー・マニュアル整備と定期見直し
まず、「採用の原則」「禁止行為」「データの取り扱いルール」などを明文化した採用ポリシーを策定しましょう。マニュアルを整えることで、担当者間の判断のブレを防ぎ、違反リスクを減らせます。また、法改正や社会状況の変化に応じて、定期的にポリシ−を見直すことも重要です。
担当者教育・研修・権限管理
採用担当者や面接官に対して、コンプライアンス教育・アンコンシャスバイアス研修・個人情報保護研修の機会を設け、定期的に意識のアップデートを促すことが大切です。
採用プロセスのある局面(例えば最終判断、条件交渉)においては、複数人での確認・承認フローを設けることで、権限の偏りや判断ミスを未然に防ぐことができます。
トラブル発生時の対応策と修復戦略

未然にトラブルを防ぐ対策も重要ですが、問題が起きた際に素早く、適切に対処できる環境構築も欠かせません。
早期発見・調査プロセスの備え
たとえば「面接時の不適切な質問」や「個人情報の取り扱い」に関する異議申し立てができる仕組みを整えましょう。応募者からの苦情や社内からの通報を受け付ける専用の窓口を設けている企業もあります。
問題発覚後は、迅速に事実確認、関係者ヒアリング、記録保存を行う体制をあらかじめ整えておくことが大切です。
説明責任・是正措置・再発防止策
トラブル発生後は、関係者への説明責任を果たすとともに、適切な是正措置を講じる必要があります。不採用理由などの説明を迫られるケースもありますが、すべてに法的義務があるわけではないため、慎重な判断が求められます。再発防止に向けては、担当者の交代やプロセスの見直し、マニュアルや監査体制の強化など、具体的な改善策を速やかに実行しましょう。
リスク管理を採用戦略の武器にする
採用活動におけるリスク管理は、単なる「防御」ではなく、企業の価値を高める「強み」としても活用できます。
コンプライアンス体制を採用ブランディングに活かす
強化されたコンプライアンス体制は、伝え方次第で「安心できる会社」という強みに変換することが可能です。昨今は、待遇やワークライフバランスだけでなく、企業の社会貢献性や信頼性も重視して企業を選ぶ求職者も少なくありません。
特に、コンプライアンス意識の高い優秀な人材にとって、強固なコンプライアンス体制のアピールは、他社との差別化を図る上で極めて有効なブランディングの手段となります。
法令遵守が社員の定着率にも貢献
コンプライアンスの徹底とリスク低減は、短期的な問題回避にとどまりません。
働く社員にとって、会社がルールを厳守し、不正やハラスメントのリスクを減らすことは、「この会社は安心して長く働ける」という信頼感にもつながります。こうした取り組みが、従業員エンゲージメントとロイヤルティを長期的に高め、結果的に社員の定着率向上にも貢献します。
参考:保育園の「働き方改革」|求められる理由とそのポイントについて – WEL-KIDS PRESS(ウェルプレ)
まとめ:リスク管理を「防御」から「成長資産」へ

今日の採用活動において、リスク管理や法令遵守は、もはやオプションではなく必須の取り組みです。ひとたび違法・不適切な対応があれば、企業の信用を大きく傷つけ、採用活動にも深刻な悪影響を及ぼします。
一方で、しっかりと実践できていれば、事業にとっても採用活動にとっても大きなアドバンテージとなるでしょう。まずは自社の採用プロセスを点検し、少しずつルールや仕組みを整えてきましょう。