「伝える」って難しい。なにを、どうやって、どの立場で? 実際に自分でやってみて初めて「伝える」という行為の奥深さ。学生と人事が二人三脚で10分の採用ピッチを作り上げるイベントに参加して得た知見とは?
大阪公立大学3回生・宮本進さんによるレポート記事です。
これから就活を控えている皆さんには、まずはこの現実を伝えておきます。
「ぶっちゃけ、就活の説明会ってめっちゃ眠い」
説明会は往々にして長時間に及びます。画面越しに、あるいは対面で、企業の「素晴らしい実績」や「手厚い福利厚生」を淡々と聞かされる時間。どんなに内容が立派でも、一方的に流れる情報を聞き続ける時間は、正直に言うと睡魔との戦いになることもしばしばです。
でも、そんな「就活の常識」を打ち破るイベントがありました。
株式会社NOVELと大阪公立大学が共同開催した「採用ピッチグランプリ」です。

ルールは極めてシンプル。企業の人事担当が、学生に向けて「たった10分」で自社の魅力をプレゼンする。そして、それを僕ら学生が採点し、順位をつける。
いつもは「選ばれる側」で、面接官の顔色を伺ってばかりの学生が、今日は「選ぶ側」になるというわけです。
「10分で学生の目の色を変えられるか?」という挑戦的なテーマを掲げたこのイベント。自分は日本郵便株式会社の伴走パートナー学生2名のうちの1人として、10分のプレゼンを人事と学生が二人三脚で練り上げました!
この記事では、学生の僕が参加して感じたことをありのままにお伝えします!!
先入観を壊し、「誰かに刺さる」ピッチへ

私が担当したのは誰もが知る「郵便局」の会社。日本郵便株式会社(以下「日本郵便」)です。同社には、配達業務をメインとする「郵便コース」の採用が伸び悩んでいる、という課題があります。
「正直、新卒で真っ先に選ぶ職種ではないかもしれない……」
お話を伺った瞬間、僕はそんな直感を抱きました。
採用の課題は「先入観」
日本郵便の人事の方とのミーティングでも、学生として遠慮なく意見をぶつけました。
「大学で専門的な勉強をしてきたのに、この先ずっと配達をし続けるだけなの? というネガティブなイメージを持たれているのではないでしょうか」と。
せっかくのピッチも、学生側の「先入観」というフィルターを突破できなければ、何も届きません。人事担当の方も、僕の意見に納得してくださり、既存のイメージを「誰かに刺さるポジティブなイメージ」へと変換するための議論が始まりました。
欠けていた「定量的魅力」の視点に気づく

このチームでの議論が面白かったのは、僕と一緒に参加したもう一人の学生の視点が、自分とは全く違っていたことです。
僕はどちらかといえば、社風や想い、やりがいといった「定性的」な部分を重視するタイプ。対して、もう一人の学生は非常にキャリア志向が強く、給与体系や具体的な昇進モデルといった「定量的」なデータを重視するタイプでした。
「実際、何年でどれくらい給料が上がるんですか?」
「キャリアパスの分岐点はどこですか?」
彼が繰り出す鋭い質問に、僕も「なるほど、そうやって現実的に企業を見る層もいるのか」と、自分にはない視点に気づかされ、刺激を受けました。人事担当の方が嫌な顔ひとつせず丁寧に回答して下さったおかげで質問もしやすかったです。
新たに見つけた勝ち筋とは?
定量的な目線でのヒアリングを進める中で、意外な事実が見えてきました。
郵便コースは決して「ずっと配達」の仕事ではありません。現場を経験した後は、郵便局長になったり、本部で活躍したりするケースが多いというのです。
一方で、現状は「窓口業務(オフィスワーク)」に人気が集中し、優秀な層もそこに偏ってしまうという課題がありました。その結果、将来組織を引っ張るリーダー層に、現場感覚を持った「郵便コース出身者」が不足しつつある……。
「だったら、郵便コースの不安要素であるキャリアアップのルートをしっかり示すことが大事なのではないか」
ピッチの方向性が決まった瞬間でした。
隠れた魅力を露出する
単に「配達も大事な仕事です」と情緒的に訴えるのではなく、「現場を知るからこそ、経営に近いポジションへ行ける。そのための戦略的な第一歩なんだ」という、キャリア志向の学生にも刺さる強気なメッセージへと昇華させていきました。
人事担当の方から「実際に日本郵便で働いている方のキャリアをモデルケースにして紹介しよう」とアイデアが出て、さらに伝わりやすいピッチになっていきました!
「定性的魅力」も伝える

議論がキャリア志向の硬い話に寄っていく中で、人事の方がふと漏らしたエピソードが、自分の心を強く動かしました。
「実はね、郵便コースの社員には、地域ごとにそれぞれの『ファン』がいるんですよ」
毎日同じルートを走り、同じ地域の方々と顔を合わせる。そんな日々を積み重ねるうちに、単なる「配達員と受取人」以上の関係が生まれるというのです。
凍えるような寒い日には、地域の方から「お疲れ様」と温かい飲み物を差し入れされる。そして何より驚いたのが、「子供が書いた、判別できないほど崩れた文字の宛先も、長年の経験と地域への理解で、誰に宛てたものか分かるようになる」というお話でした。
それはAIや効率化だけでは決して到達できない、泥臭くも圧倒的にプロフェッショナルな、現場の誇りそのものでした。
定性面も混ぜて独自性を確立
定性的な魅力を重視する僕にとって、これこそが日本郵便という会社が持つ「唯一無二の価値」だと確信しました。僕は思わず、
「これです! このエピソードこそ、ピッチに絶対に組み込むべきです!」
と、身を乗り出して強く提案しました。
「キャリアアップができる」という事実と、「地域に愛され、必要とされる」という定性的魅力。
この二つが組み合わさることで、最初はネガティブなイメージだった郵便コースが、「現場でしか得られない深い人間理解を武器に、将来の経営を支えるリーダーを目指す道」だと感じるようになりました。これを上手くプレゼンすることで、興味を持ってもらえる学生を1人でも増やしたいなと思いました。

削ることの難しさ
伝えたいメッセージは明確になった。けれど、そこで僕たちの前に立ちはだかったのが「10分」という制限時間でした。
日本郵便という、日本最大級のネットワークを持つ巨大な企業。社会インフラとしての役割、安定性、事業の多様性……伝えたい「会社の凄さ」は山ほどあります。しかし、それらを詰め込むと、どうしても10分の枠をオーバーしてしまう。
「情報量が多いほど魅力が伝わるわけではない」
このことを念頭において、人事担当の方と一緒に、ターゲットとなる学生の視点からピッチを見直しました。
僕は「学生側の代表」になったつもりで、忖度なしの意見を投げかけました。

「確かにこの福利厚生は手厚くて素晴らしいです。でも、今の僕らからすると使うシーンが想像しにくいし、1回聞いただけでは頭に残りません。ここは思い切って、バッサリ削りませんか?逆に興味深い福利厚生は、キャリアプランの例に付け加えながら組み込んでみてはどうでしょうか?」
泣く泣く削って前進する
人事の方にとってみれば、自社の魅力はどれも大切に育ててきた要素のはずです。それを削る提案をするのは勇気がいりましたが、担当の方は僕の意見を真剣に受け止め、何度もスライドの表現を練り直してくださいました。
「何を残し、何を捨てるか」
このシビアな議論を経て、ピッチの内容はどんどんより良いものになっていきました。それは、企業の情報を整理する作業というより、「どうすれば今の学生の心に、日本郵便の魅力を届けることができるか」という、一つの作品を作り上げるような熱い時間でした。
このイベントを振り返って

企業と学生の間にあった「評価する・される」の壁が崩れ、一緒に「良い採用ピッチ」を考えようとする不思議な一体感が生まれていて、素晴らしいイベントだったなと感じています。
残念ながら日本郵便はグランプリとなることができませんでしたが、自分に欠けていた視点にも気づき、また人事担当との密なコミュニケーションの経験もでき、自分のスキルアップになったと思います。日本郵便の人事担当の方も、学生の意見を大切にしてくださり、自分の意見が議論を形作っていったという自信も持てました。
「伝える」というスキルを磨くには
このイベントを通して、「伝え方や戦略で、受け取り側の感じ方がすごく変わる」ということを身に染みて感じました。
相手が誰で、何を求めていて、自分はどう貢献できるのか。それを考え抜くことこそが、本当の意味での「選ぶ・選ばれる」ということなのだと思います。
このような考えに至ったのは「伝える側」に立ってプレゼンを考えたという経験によるものが大きいと思います。
このレポートを読んでくれている学生の方は、第2回が開催されれば是非とも参加していただきたいです!
文・宮本進(大阪公立大学 理学部 数学科 3回生)
編集・株式会社NOVEL